奥深きインドブログ

シヴァ神とヒマラヤ山脈の関係:インド神話シリーズ

仏教とヒンドゥー教が融合した大乗仏教のおかげで、ヒンドゥー教の神々の多くは日本人にもよく知られていると思います。たとえば、弁才天は「サラスヴァティ」(知恵、芸術、学問の女神)、吉祥天は「ラクシュミ」(繁栄の女神)、毘沙門天は「クベーラ」(富の神)、大黒天は「シヴァ」(破壊の神)、等です。

今日は、ヒンドゥー教の神々の中でも最もミステリアスな神様であるシヴァ神についてお話したいと思います。シヴァ神に関する神話は実に多様・多彩で、一つのストーリラインにまとめづらいですが、これは多分シヴァ神が先史時代に遡るインド亜大陸の何柱かの神様の融合体だからだと私は考えています。

そういえば、大黒天だって「シヴァ神」と神道の「大国主神」の融合の結果ですよね。「大黒」と「大国」は音が似ているからでしょうか。そして、ヒンズー教でシヴァ神は主に破壊の神(創造→維持→破壊のサイクルで、破壊をつかさどる神)とされているのに対し、大黒天は日本で幸運や富の神様だとされていますね。同じく、インドでも、シヴァ神は破壊の神以外に色んな側面をもっています。

例えば、シヴァ神はなぜかヒマラヤ山脈と強く結び付けられています。今日はシヴァ神とヒマラヤ山脈に関する神話を共有し、それらの神話が本当に何を伝えたがっているかについて、私なりの解釈も提示したいと思います。

シヴァ神とガンジス川

古代インドに、ヒマラヤ山脈のすぐ下に広がるインド北部の平野に王国を治めていた「バギーラト」という王がいたと言います。

当時、ガンジス川 (サンスクリット語で「ガンガー」と言う) は天界に住む女神でした。バギーラトはガンガーが地上に降りてきて自分の国を流れてほしいと考えました。ガンガーも賛成しましたが、天界から地上に降りる方法について心配でした。「私の水は豊富で強力です。天界から地上にまっすぐ飛び降りたら、地球が流されてしまいます。もっと穏やかに降りる方法を見つけてください」と。

助けを求めてバギーラトはシヴァ神のもとへ行ったら、シヴァ神は親切にもガンガーの踏台になってやると申し出ました。ガンガーが天界から飛び降りると、シヴァ神は彼女を自分のまげに閉じ込めました。そこから、ガンガーはシヴァ神の豊かな髪を通してゆっくりと地上に流れ落ち、バギーラト王の国に豊穣と繁栄を与えてくれたと言います。

文字通りに解釈すると、おとぎ話に聞えますが、これを、ヒマラヤ山脈の最高地帯(=天国)からガンジス川がヒマラヤの谷間(=シヴァの髪)を沢山の小川となって流れ、後に平野(地上)に着く頃には大きな川になっているという地理的な物語として捉えたらどうでしょうか?

シヴァ神とカイラス山

さらに、ヒンズー教では、シヴァ神の居所はカイラス山だと信じられています。 これも、私には地理的な物語に思えます。

上記の地図(自分が作成)は、最終氷期直後のインド亜大陸の大まかなイメージです。ヒマラヤ山脈を覆う白い部分は氷河です。当時ヒマラヤ山脈全体が雪に覆われていて、北極と南極に次ぐ「第3の極」と呼ばれるぐらいでした。「ヒマラヤ」という名前自体も、サンスクリット語に由来し、文字通り「雪の場所」と訳せます。

もちろん、以後何千年もかけて、地球が徐々に暖まるにつれ、ヒマラヤ山脈の氷河も溶けて減少し、今や大部なくなっていますが、今でもインド北部平野のほとんどの川に水を与えるのに十分な量はまだ残っています。唯一干上がってしまったのはサラスヴァティ川でしょうか(地図では、科学者がサラスヴァティ川がかつて流れていたと考える場所に基づいて、大まかな流れを描きました)。

インドの地理は非常に特別なものがいくつかあります。

インド内陸部(北部平野)は海から遠く離れているため、モンスーン期(6月~9月)以外はほとんど雨が降らなく、乾燥しています。それにもかかわらず、この平野はインドの最も肥沃で人口密度の高い地域であり、それは何千年も昔からそうだったのです。その理由は、この地域全体を縦横に走る、氷河に水源を持つヒマラヤの川が一年中流れているからです。したがって、これらの川は北インドの生命線であり、古代から当然のように崇められてきました。

地図からもわかるように、もう1つの注目すべき点は、北インドの川のほとんどが、カイラス山の周辺に源を発していることです。カイラス山は世界最高峰ではありませんが、ヒマラヤ山脈の最高地帯にある山で、特徴的な形をしています。つまり、この山はインド北部平野に生命を与える川が発する大体の場所を示しております。

そう考えると、ヒマラヤ山脈、その川、そしてこれらの川が発する場所を示す山が、それらに命を懸けている人々にとって神聖なものであるのも当然かもしれませんね。

ヒンズー教では、カイラス山はシヴァ神の居所であり、シヴァ神はヒマラヤ山脈の娘である妻「パールヴァテ​​ィ」とともにそこに住んでいると信じられています。ヒマラヤの最も低い山脈(麓の部分)は「シヴァリク」と呼ばれ、サンスクリット語で文字通り「シヴァの額」という意味です。インドの地形図を見ると、ヒマラヤ山脈がシヴァ神のもつれた髪に似ていませんか?そして、ヒンズー教の図像では、シヴァ神の顔色は樟脳の色だとされていますが、ヒマラヤ山脈を覆う氷河の色を連想させませんか?

シヴァ神とヒマラヤ山脈の関係は何なのか、正確には分かりませんが、間違いなく関係しているように思えます。

最後に、ヒマラヤ山脈を流れるガンジス川の美しいドローン映像をご紹介します。


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