インドの一年

六つの季節や年中行事で旅するインド

インドには古くから、一年を六つの季節に分ける考え方があります。

春、夏、雨季、晩夏、秋、冬。

春の菜の花畑 (Photo by Abhijit Kar Gupta, CC BY 2.0)

それぞれが約二か月ずつ続き、大まかに言えば、春は2月・3月、夏は4月・5月、雨季は6月・7月、晩夏は8月・9月、秋は10月・11月、冬は12月・1月というイメージです。

このような六季の考え方は、大昔からインド・ガンジス平原で発達してきたため、北インドのその地域の気候に最もよく当てはまっています。「春」は過ごしやすく、少しずつ暑くなり始める季節、「夏」は湿気が少なく、猛烈に暑い季節です。雨季になるとまとまった雨が降り続き、晩夏はようやく空が晴れますが、湿気が多く、暑さも戻って蒸し暑くなります。秋は一年で最も過ごしやすい季節で、冬も比較的穏やかですが、新年をはさんで2週間位厳しい寒さが続きます。

季節の考え方は世界中で農村生活を前提として発達してきたものだと思います。そして人々の生活、お祭り、年中行事などは一年を通した季節の移り変わり、田植えや収穫のサイクル、畑仕事が忙しい時期とひと段落する時期、食べ物が豊富な時期と少なくなる時期などと深く結びついていることが多いです。

昔の人はもちろん、今でも農村で暮らす人たちが自然のリズムに合わせた生活をしているのは当たり前ですが、自然から離れて都会で暮らす人たちも、それなりの季節感を持って生活しています。

今回は、現代のインド人が一年を通して季節とどのように付き合っているのかという視点からインドの一年を考えてみました。インドに住んだことがある人には懐かしく、インドへ行ったことがない人には新鮮に思える季節毎のインドの情景をご紹介します。

春(「ヴァサンタ」)

咲きこぼれる花の園
花のつぼみと遊ぶミツバチ
クジャク鳴けば、
コキラのさえずりに胸が揺れ
春風に香るマンゴの花房
水がめ抱えた娘たち
果樹園に飛び交う呼び声
ああ、春たけなわ

インド古典音楽に伝わる春のバンディシュ(声楽曲)の一節です。

甘く香るマンゴの花、見渡すかぎりに広がる黄金の菜の花畑、コキラ(春になると絶えず鳴くインドのカッコウ)の声、花の間を飛び交うミツバチ。こうした春の情景は、古代から詩や音楽、舞踊、絵画の中に描かれてきました。

マンゴの花 (Photo by Harshyadavji, CC0)

世界中と同じく、インドでも春は喜びと新しい始まりの季節です。春を代表するお祭りといえば、色の祭り「ホーリー」。子どもも大人も色粉や色水を掛け合い、春の訪れを思いきり楽しむ祭りです。

色の祭りホーリー (Photo by Zaheed Sarwer Khan, CC BY 4.0)

また、春分のタイミングに合わせて、インド各地で新年が祝われます。地域によって新年お祝いの名前や祝い方は多少異なりますが、家をきれいに掃除し、新しい服を着、家族そろって新しい一年の幸せを願うのは共通しています。

南インドの新年(「ウガーディ」)のお祝い料理には旬の材料を使って甘味・塩味・辛味・酸味・苦味・渋味の「六味」を合わせた料理があります。アーユルヴェーダでは、この6つの味のバランスが心も体も癒してくれるもので、春から夏への季節の変わり目に備えて体を整える効果があると考えられています。

新年料理の材料:黒糖、塩、黒コショウ(辛味)、タマリンド(酸味)、ニームの花(苦味)、青マンゴ(渋味) (stock photo)

また、東インドのアッサム州には、日本の七草粥に似た「エッコエク・ビド・シャーク(101種類の野草)」という新年の伝統料理があります。新年(「ビフ」)を迎えると、人々は自然の中へ青菜や野草を摘みに出かけ、できるだけ多くの種類を家に持ち帰り、一つの鍋でじっくりと炊き上げ一年の健康を願います。

夏(「グリシュマ」)

春が終わり、燃えるような赤い「グルモーハル」の花が街路樹を埋め尽くす頃、「今年も夏が来た」と感じます。地域によっては気温が40℃を超える日々が続き、十分に水分補給しておかないと熱中症になりやすい季節です。

夏のグルモーハル (Photo by Kandukuru Nagarjun, Bengaluru, CC BY 2.0)

昔ながらの夏の知恵には素焼きの水瓶「マトカ」に水を冷やして飲む習慣があります。マトカには気化熱の力で水を冷やし、わずかな不純物をろ過しながら、水を弱アルカリ性に整える性質があります。暑い日に土の香り漂う冷たいマトカの水をゴクゴク飲むと最高においしいです。

マトカの水 (Image created by ChatGPT)

北インドでは、夏に誰かが家を訪ねてくると、まず最初に冷たい水とジャガリー(黒糖)を差し出す習慣があります。家族や友人はもちろん、ふらりと訪ねてきたお客さんにも、まず喉を潤し、体力を回復してもらうための昔から受け継がれてきた思いやりの心です。

インドの夏といえば、何よりマンゴですね。インドには1500種類以上のマンゴがありますが、各地域にそれぞれ人気のマンゴが何種類かあります。その食べ方も多種多様で、厳しい暑さの中でも楽しみにできるものとして古くから親しまれています。

子供たちにとって、夏は長い夏休みと祖父母の家に遊びに行く季節でもあります。普段は会えない従兄弟たちが集まり、祖父母に思いきり甘えながらその約2ヶ月間を楽しく過ごします。一日中遊び、夜になると屋上に寝具を運んで、満天の星空を眺めながら眠りにつくまでみんなで内緒話をしたことは、多くのインド人にとって夏の素敵な思い出の一つです。

屋上で寝る (image created by ChatGPT)

雨季(「ヴァルシャー」)

インドの雨季は、ただの「雨の多い季節」ではありません。

日本など、一年を通して多少は雨が降る地域とは違い、インドの多くの地域では、雨が降るのはほぼ雨季だけです。そのため、夏の終わり頃には大地はすっかり乾ききり、人も草木も、ただ雨を待ち続けているのです。

そしてある日、遠くの空に黒い雲が湧き上がり、雷鳴が聞こえ始めます。ひんやりとした風が一気に吹き抜け、地面に積もった枯れ葉や砂ぼこりがくるくると舞い上がります。空気がふっと軽くなり、「もうすぐ雨が来る!」という高揚感に包まれる瞬間です。

インド雨季(タミルナデュー州) (Photo by Planemad, CC0)

最初の雨が降り始めると、思わず外へ飛び出したくなるような解放感があります。クジャクが羽を広げて踊り、乾いていた大地が一気に緑へと変わります。雨季は、インドの一年の中でも特にドラマチックな季節です。

クジャク (Photo by Kandukuru Nagarjun from Bangalore, India, CC BY 2.0)

「ヴァルシャー」という言葉は、「雨季」と「年」の両方を意味します。つまり、昔の人々は「何回雨季を迎えたか」で年月を数えていたのです。

インド古典芸術には雨季は昔から、恋の季節としても愛されてきました。古典音楽には雨季のラーガが数多くあり、古典詩や文学には、雨の中で切ない気持ちで恋人を待ち続ける女性や、久しぶりの再会を喜ぶ恋人たちが繰り返し描かれています。

雨の日の定番ごちそうは「チャイとパコラ」です。外は雨、家の中では熱々のチャイを飲みながら、揚げたてのパコラを頬張る。そんな時間は、多くのインド人にとって雨季の楽しみです。

パコラ (Photo by Upendra Kanda, CC BY 2.0)

雨季に揚げ物を食べるのは昔からの生活の知恵でもあります。何日も雨が降り続くと、いたるところに水がたまり、さまざまな疫病や感染症が流行しやすくなります。そのため、「しっかり火を通した温かい料理を食べるのがよい」と考えられ、揚げ物が体をいたわる雨季の定番になっていったかもしれません。

晩夏(「シャラダ」)

雨季が終わると、長いあいだ雲に覆われていた空が晴れ、夜には明るい月が輝くようになります。

この季節の満月は「シャラダ・プールニマ」と呼ばれ、古くからインドの詩や音楽にたびたび登場してきました。白く澄んだ月明かりは、恋や憧れを表す風景として描かれます。

また、この頃になると、パーリジャータの花が夜のうちに咲き、朝になると白い花びらが珊瑚色の軸をつけたまま地面に落ちています。木の上で咲いている姿よりも、朝の地面を静かに彩る姿のほうが印象的な花です。その美しさは神様への信仰とも結びつき、今でも神様にお供えする花として親しまれています。

パーリジャータの花 (Photo by Avik De, CC BY 3.0)

「シャラダ」という言葉は「実り」や「成熟」という意味と結びついていて、収穫を目前に控えた季節です。雨が大地を潤し、田畑の作物は少しずつ実り始めます。とはいえ、収穫まではあともう少し。昔の農村では、農作業もこの頃にはひと段落し、人々は収穫を待ちながら、ほっと一息つける時期でもありました。

この季節には、ご先祖様を偲ぶ二週間の「ピトラ・パクシャ」があり、家族で先祖に感謝を捧げます。その静かな期間が終わると、にぎやかなお祭りの時期に入ります。

地域によって、ナヴァラートリ、ドゥルガー・プージャー、ガルバ、ダシャハラーなど呼び名や祝い方はさまざまですが、多くの学校は十日ほどの休みに入り、町には屋台や飾り付けが並び、音楽や踊りでにぎわいます。

ナヴァラートリのガルバ (Photo by Anurag Agnihotri, CC BY 2.0)

昔は前年に収穫した穀物も少なくなってくる頃だったため、ヒヨコ豆やイモなど、普段の主食とは違う食材を食べながら過ごす時期でした。その名残は今も残っており、ナヴァラートリの九日間には、「ヴラタ」と呼ばれる、普段の主食を控えて特別な食材をいただく食習慣を守る人も少なくありません。

秋(「 ヘーマンタ」)

収穫が終わるころには秋になっています。北インドではこの季節を「バラ色の季節」といいますが、心地よい穏やかな気候を表す言葉だと思います。

夕暮れが早くなり、もうすぐ冬だと感じるころに、昔から家の周りに土のランプをともして明るくする風習がありました。それがやがて光の祭り「ディワリ」へと発展していきました。

土のランプ(ディア)(Photo by Abhimeena3213, CC BY 4.0)

ちょうど収穫も終わっているころで、ディワリは豊かな実りを家族や友人と分かち合うお祭りでもあります。

新しく収穫された穀物や豆を使ったお菓子や軽食がたくさん並び、家にはお菓子の箱が山のように積まれ、それを手に親戚や友人の家を訪ね歩くのもこの季節ならではの風景です。

お菓子 (stock photos)

夜になると、無数の灯りが町を照らし、花火が夜空を彩ります。収穫への感謝と、次の一年の幸せや繁栄を願って過ごす、インドの最も華やかなお祭りです。

ディワリ(アッサム) (Photo by Kinshuk Kashyap, CC BY 2.0)

ディワリが終わる頃には、北インドでは暑さがやわらぎ、朝晩は少し肌寒くなって、ショール姿の人が増えます。生姜入りの温かいチャイが飲みたくなり、街角では炭火で焼くトウモロコシや焼き立てピーナツの香ばしい香りが漂って来て、冬が近づいてきたことを感じます。

暑すぎず寒すぎず、外でのんびり過ごすのが本当に気持ちいい季節です。屋上や庭先で日なたぼっこを楽しむ人も増えてきます。

冬(「シシラ」)

インドの冬は、世界の寒い地域ほど長くも寒くもありません。ほとんど秋の穏やかな気候がそのまま続くような季節です。ただ、新年を挟んで二週間ほど、北インド全体が濃い霧に包まれ、太陽が何日も姿を見せない日が続きます。

霧に包まれた冬の朝 (Photo by Abhijit Kar Gupta, CC BY 2.0)

列車は大幅に遅れ、飛行機が欠航になることも珍しくありません。街角では、屋外で働く人たちが小さな炭火鉢(アンギーティ)を囲み、素焼きの器「クルハド」に入った熱々のチャイを飲みながら、身を切るような寒さをしのごうとする姿が見えます。

寒さをしのぐ労働者たち (Image created by ChatGPT)

しかし、1月中旬になると、まるで季節が切り替わるように青空が戻り、暖かい日差しが降り注ぎ、心地よい風が吹き始めます。太陽が北へと巡り始め、暖かい日々が戻る時期、また冬の収穫を迎える時期でもあり、昔からマカル・サンクランティ、ウッタラーヤナ、ポンガル、キチャリー、ローフリーなど、様々な名でインド各地で盛大に祝われてきました。

冬の収穫には米、サトウキビ、胡麻、ピーナツなどがあり、新米のおこしやゴマやピーナツを黒糖で固めたお菓子などがこの季節の定番で、体を温めてくれます。

胡麻、ピーナツ、黒糖で作った冬のスイーツ (stock photo)

1月中旬から下旬にかけて、暖かな日差しと心地よい風に誘われ、人々は屋上へ上がって凧揚げを楽しみます。グジャラート州のウッタラーヤナは特に有名ですが、この季節に空いっぱいの凧が舞う風景は、インド各地で見られます。

グジャラート州の凧揚げ祭り

それから一か月ほどすると、またマンゴの花が咲き、コキラの声が聞こえ始め、六つの季節をめぐりながら、また春へと戻っていくのです。


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コメント

“インドの一年” への2件のフィードバック

  1. ゆみのアバター
    ゆみ

    sadhanaさん、こんにちは!
    今回も素晴らしいインドの季節、習慣、お菓子などを紹介してくださってありがとうございます😊
    記事を読んで、とても幸せな気持ちになり、穏やかで心が和みました❤️
    sadhanaさんの優しくキレイな言葉遣いやお写真から、インドの六季を想像して、憧れを持ちながら読ませてもらいました。
    インドの六季を知り興味深く、皆さんがその季節季節を楽しんだり工夫して暮らしておられる様子を見て、行きたい気持ちがとても高まります!
    マンゴーの種類が1500も有るとは!驚きです。自然も豊かで美しいですね。
    春のバンディシュの表現も素敵です。お菓子にも意味があり、美味しそうだけではなく深いものなのだと分かりました。
    家族親族の結びつきや夏の夜空のお話しは、昔の日本のお盆や夏休みの過ごし方を思い出します。
    雨季の恋の季節もドキドキします!晩夏の信仰、踊り、食生活。秋のディワリの様子やお菓子、厳しい冬の過ごし方や凧揚げなど、知れば知るほど面白いし昔からの工夫や知恵に関心が深まります。

    そして、日本との共通点も多いのも不思議だし嬉しいです😆
    今日も色んなインドを🇮🇳ありがとうございます😊
    日本は過ごしにくい梅雨時ですが
    sadhanaさん、体調お気をつけてお過ごしください!

    1. Ushaのアバター

      ゆみさん!わ~、素敵なコメントどうもありがとう!日本とインドの感覚は結構似ているなぁと感じることがよくあります。普段英語でブログ記事を書き、日本語に訳すことが多いが、この記事は日本語で書いて英語に訳しました!:D 
      日本と似ているところが非常に多いんですよね。七草粥とか、お盆に似た2週間のピトラ・パクシャとか、胡麻などの黒糖で作ったスイーツとか、びっくりしますよね。
      そうです、マンゴーは地域ごとの品種があるけど、本当においしいのは数十種類ですね。各地域に人気のおいしい種類があるけど。クリーミーなものとか、蜂蜜のように甘いものとか、程よい酸味が含まれるものとか、香りが素晴らしいものとか、触感がすごくなめらかなものとか、色々特徴があります。いつか食べていただきたいですね。夏のインドは暑いけど。。。:D

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